試験勉強などのために暗記しようとしても、なかなか覚えられず苦労されている方は少なくないと思います。
実は、近年の脳科学の発展により暗記(記憶)のメカニズムが解明されつつあり、この視点からの効率的な暗記方法が提案されています。
そこで、この記事では脳科学の視点から暗記のメカニズムと効率の良い暗記方法について解説します。
暗記のメカニズム
暗記のメカニズムは、ある程度科学的に解明されています。
みなさんが学習して新しく得られた情報は、脳の前方にある前頭皮質に送られて短い時間だけ保存されます。
それらの記憶はすぐに忘れられてしまいますが、その内の一部は脳の中心近くにある海馬で変換されて、脳の表面付近にある大脳皮質などに移されて長期間にわたって保存されます。
これは長期記憶と呼ばれるものであり、脳は必要に応じてそれを思い出すことができます。※1
つまり、暗記したいものを長期記憶に変換して暗記するためには、海馬を刺激することが重要なのです。
この暗記のメカニズムを理解して活用すれば、効率がよい暗記が可能となります。
以下では、暗記のプロセスに重要な感覚記憶、短期記憶および長期記憶に関して説明していきます。
感覚記憶
私たちは、何かを見る時に使う視覚や食べ物を味わう時に使う味覚を通して、常に外部から刺激を受けています。
実はそれらの刺激を受けているときにも、脳は受けた刺激を記憶しているのです。
これは感覚記憶と呼ばれるもので、目や舌などの感覚器官を通して受けた刺激(情報)は瞬間的に記憶され、すぐに忘れられてしまいます。
したがって、感覚記憶の保持期間は非常に短くなっており、0〜2秒と言われています。※2
※2 リベラルアーツガイド.【感覚記憶とは】短期記憶・長期記憶との関係からわかりやすく解説
短期記憶
次に、短期記憶について解説します。
短期記憶とは保持期間が比較的短い記憶のことを指し、その保持期間は数十秒程度と言われています。
また、短期記憶において記憶できる量(情報の容量)は大きくありません。※3
短期記憶の一つとして、日常で行う作業などに必要なワーキングメモリがよく知られています。
例えば、みなさんが目当ての本を本屋で探す時は、その欲しい本を記憶しつつそれを頼りに探しているはずです。※4
このように、短期記憶においてはみなさんが無意識のうちに情報が脳内に記憶されます。
短期記憶はすぐに忘れてしまいますが、同じ刺激を受けているうちに海馬で長期記憶へと変換され、その情報は脳内に暗記されます。
※3 心理学用語サイコタイム.短期記憶
※4 LD.school.An Introduction to Working Memory
長期記憶
長期記憶とは、文字通り長期にわたって保持される記憶のことを指し、その保持期間は数分から一生です。また、記憶される容量の大きさに制限はないとされています。※5
長期記憶は2つに大別できます。それらについて解説していきます。
陳述的記憶(宣言的記憶)
私たちは記憶したものを脳の中で思い出し、それを話すことで相手に伝えることができます。このタイプの記憶は、陳述的記憶と呼ばれています。※6
陳述的記憶は、さらに意味記憶とエピソード記憶に分けることができます。
意味記憶には、私たちが学習して得ている知識が含まれます。
例えば、私たちがリンゴを記憶する際には、それを表すための味や形、色などの情報が記憶されます。
一方で、エピソード記憶とは個々の体験あるいは経験のことを指します。
例えば、昨日の昼ごはんをどこで何を誰と食べたかという記憶です。
受験勉強のために暗記したものについては知識に相当するので、この場合の暗記は意味記憶です。
※6 陳述記憶・非陳述記憶.鈴木 麻希、藤井 俊勝 .脳科学辞典:2013
非陳述的記憶(手続き的記憶)
内容を想起できず、かつそれを話して伝えることができない記憶のことを、非陳述的記憶と呼ばれています。※6
歩行や自動車の運転など、私たちが無意識に行っている行動において使われている記憶です。
また、非陳述的記憶にはプライミング効果も含まれます。
これは事前に与えられた情報が、その後の行動に影響を与えるものです。※7
プライミング効果は多くの広告で活用されており、例えば、あるお菓子のCMを見た人たちはその後にそのお菓子を買いたくなります。
脳科学的な視点を踏まえた暗記方法とは?
ここまで、脳科学の視点で暗記あるいは記憶に関して解説してきました。では、どのように脳科学の知見を活用して効率良く暗記できるのでしょうか?
ここでは、脳科学を活用した暗記方法についてご紹介します。
【暗記法その①】繰り返し暗記したいものに触れる
脳科学の視点で効率的な暗記の方法として、まずは繰り返し暗記が挙げられます。※8
例えば、覚えたい英熟語や英単語を何度も繰り返して読むことにより、海馬や前頭前皮質が刺激されます。
もちろん、その多くは短期記憶としてすぐに忘れてしまいますが、脳はその刺激を何度も受けているうちにそれはやがて海馬で長期記憶に変換され、大脳皮質などに移されます。
ここで重要なのは、海馬や前頭前皮質に繰り返して刺激を加えることです。
暗記したいものに触れる頻度が高ければ高いほど、長期記憶として暗記できる可能性が高くなります。
何かを勉強している際は、必ず前日の復習を行い、その後も3日後、1週間後、1ヶ月後などに定期的に見直すと良いでしょう。
また、目で読むだけでなく、声に出して読む、覚えたことをノートに書き出してみる、問題集を解く、人に学んだ内容を教えるなど、いろいろな方法でアウトプットすることも有効です。
※8 STUDY HACKER.「7回」が理想!? やっぱり勉強は “繰り返し” が最高の近道だった。
【暗記法その②】感情を交えて暗記する
暗記をするために、ただ同じことを繰り返すだけではやがて飽きてしまうかもしれません。
実際に、そのようなネガティブな感情は記憶形成に悪影響を及ぼすことが知られています。
ネガティブな感情によりストレスホルモンが分泌され、暗記に重要な海馬が萎縮してしまいます。
一方で、好奇心や面白いなどのポジティブな感情は暗記を促進してくれます。
ポジティブな感情を持てば、感情を司る扁桃体(へんとうたい)は、海馬の脳細胞を活性化し、記憶力が強化されます。実際に、私たちの脳は好むものを記憶しやすくなっています。※9
例えば、事実だけを羅列した歴史の教科書よりも、面白おかしくストーリーにした歴史漫画の方が記憶に残りやすくなります
したがって、勉強に対してポジティブな感情を持てるように工夫すれば、暗記の効率が上がります。
※9 大人のスキル入門.脳のパフォーマンス最大に 脳医学者お薦めの勉強法
まとめ
脳科学的に効果のある暗記手法は、「繰り返し暗記」と「感情を交えた暗記」です。
「感情を交えた暗記」の方がやや難しいかもしれませんが、例えば、暗記しようとしている対象を理解して興味深い点を見つけてはいかがでしょうか。
試験勉強の期間は限られているため、ここで紹介した暗記方法を少しずつでも実践して、効率よく時間を使うことをおすすめします。
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